トップメッセージ 2022年9月
2022年9月2日 更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介
秋の音に聞く
秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる
(藤原敏行 古今和歌集)
立秋が過ぎ、ツクツクボウシが鳴き始めると秋を感じます。けれど相変わらずの猛暑は続き、コロナもなかなか収束せずに新しい変異株が次々と出てきます。世界中の人々がどこにでも自由に行き来できる巨大な交通圏を確立してしまった今のこの世界は、感染症のウイルスにとっては、繁殖に絶好の巨大マーケットになってしまったように思います。今さら、過去の狩猟採集時代のように、山里や海岸で孤立した集落生活に戻ることはできませんが、コロナウイルスの蔓延は文明の発展と自然との共存の難しさを改めて感じさせる人類史的な出来事だと思っています。
柳生名誉会長と八ヶ岳への思い
7月30、31日に、この4月に亡くなられた柳生博名誉会長のお別れ会が八ヶ岳倶楽部で催されました。2日間で1000人以上の参列者がありました。私も日本野鳥の会の役員や職員と一緒に参列して、お別れの言葉を述べさせていただきました。
柳生さんは八ヶ岳倶楽部では家族やスタッフから「パパさん」と呼ばれ、とても慕われていました。この度、八ヶ岳倶楽部のテラスから見下ろす林のはずれに「パパの石」と名付けられた石碑が建てられました。石碑には柳生さんの遺した言葉が刻まれています。
八ヶ岳の麓には、八ヶ岳倶楽部以外にも野鳥の会にご縁のある施設があります。当会創設者である中西悟堂と親しい人たちが地続きの土地をそれぞれ買って八ヶ岳野鳥村と称している小さな森には、悟堂が森の散策を楽しんだ共同の山荘「悟堂山荘」が今も残されています。また近くには鳥類画家の藪内正幸さんの美術館もあります。
私の夢ですが、今後、こうした施設、団体、地元自治体と野鳥の会がコラボして、八ヶ岳のこの一帯を野鳥の聖地として盛り上げていくことができればいいなと考えています。ついでに野鳥の会の事務所も、東京にある必要はないと思うので、ここに移転すればいいのにとも思っています(当面は無理でしょうね)。
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そろそろ各地のツバメたちのねぐらも大きくなりはじめ、南へと渡っていく季節になりました。渡り途中のオオルリやキビタキの若鳥の姿が公園の木立にも出現し、モズの高鳴きも始まります。渡りのノビタキたちが田んぼの稲穂やススキにポツンととまっていることもあります。ペガサスやアンドロメダなどの秋の星座がきらめく夜空に、アオアシシギやキアシシギの声がわたっていくのを聞けるのもこの季節です。
日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
夜の里山はワンダーランド
夏のナイトハイク
今年の夏も、私が運営にかかわる「サシバの里自然学校」では、子どもたちを対象にしたキャンプを何度か行ないました。宿泊を伴うキャンプの楽しみは、普段の日帰りの活動に加えて、皆で火をおこして羽釜でご飯を炊いたり、古民家の大きな広間で一緒に寝たりすることですが、特に人気があるのが生きものを探して夜の里山を歩くナイトハイクです。
夜の7時半を過ぎて暗くなったころ、ヘッドライトや手持ちのライトを用意して、皆で自然学校内の山道を歩きだします。何度も歩いている場所なのですが、暗闇に包まれた林は昼間とはまったく違った世界。子どもたちにとっては、ドキドキ、ワクワクのワンダーランドです。そして、出会う生きものたちも、昼間とは違った姿を見せてくれます。
夜の里山(田んぼ)での生きもの探し
夜の生きものたちに大興奮!
昼間はほとんど見かけることがないカマドウマの仲間が、あちこちの地面や木の幹の上をエサを探して歩き回っています。まわりの草むらでは「スイーッチョ、スイーッチョ」とハヤシノウマオイが盛んに鳴いています。さらに林の中を歩いていくと、羽化したばかりのアブラゼミを発見。「わー、きれい」と、皆エメラルドグリーンの美しい姿にうっとり。
田んぼにでました。水の中に向けてライトを照らすと、「いる、いる」と子どもたちから歓声があがります。昼間には草の陰や落ち葉の下に隠れていてなかなか見つけることができなかったタイコウチがあちこちにいます。メダカも、こんなにたくさんいたのかと思うほど、多数の個体がゆっくりと水の中を泳いでいます。1時間のナイトハイクが終わって古民家に戻る頃には、皆大満足、大興奮です。
9月になり、今年の夏のキャンプも終わりました。ちょっと寂しいですが、夜の里山でのドキドキ、ワクワク体験を通じて、子どもたちの心の中に里山やそこにすむ生きものたちへの想いが芽生えてくれていたらうれしいな、と思うこの頃です。