トップメッセージ 2022年5月

2022年5月2日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

夏鳥の季節に

緑も濃くなり、鳥たちのさえずりが賑やかな季節ですが、コロナ禍は3年目に突入して、なかなか収束の気配を見せません。それでも人々の間に少しは安心感が出てきたのは、3回目のワクチンを接種した人も増え、私たちの側もウイルスを必要以上に恐れるのではなく、合理的な対処の仕方を身につけてきたのが効いているのだと思います。

さて夏鳥たちの状況はどうでしょう。日本野鳥の会がNPO法人のバードリサーチなどと協力して行なった「全国鳥類繁殖分布調査」の結果が出されています。コマドリやメボソムシクイなど減っている夏鳥もありますが、キビタキ、アカショウビン、サンコウチョウなど、その数が回復してきている種類もあります。鳥の個体数の増減には、さまざまな要因が絡んでいるのでしょうが、人間の影響で彼らを絶滅に追い込むようなことはあってはなりません。

カラ類の巣箱
東秩父の丸山にて。調査用に設置したカラ類の巣箱の様子を確認。

あるチェロ奏者のスピーチ

新緑の美しい日本の初夏の風景に、この国に生まれてよかったなと思います。しかし今この瞬間も、ウクライナでは砲弾が炸裂し、人々が殺されているかと思うと、心はとても休まるものではありません。

思えば今から約50年前、1971年の10月に、ニューヨークの国連本部において、国連平和賞の授賞式に臨んだ世界的なチェロ奏者のパブロ・カザルスが、彼の生まれ故郷であるスペイン・カタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」を演奏したことを覚えています。

故国でのフランコ独裁に抗議してスペインを離れ、一貫して、反ナチ、反独裁を貫いた平和主義者カザルスの人前での演奏は、じつに40年ぶりでした。当時94歳だった彼は、演奏にあたって、声を振り絞ってこうスピーチしました。

「鳥たちはこう歌うのです。
 Peace、Peace、Peace!
 Peace、Peace、Peace! と!」

ウクライナの空に、銃声ではなく、鳥たちの歌が響く日が1日も早く戻りますように!

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プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

カエルがすむ生物多様性豊かな農村をいつまでも

カエルによって保たれる生物相

里山が新緑に覆われる頃、私は田植えに向けて田んぼに水を張ります。すると、待ってましたとばかりにたくさんのカエルたちが動き出します。私が耕作する山間の谷津田はカエルにとって絶好の生息場所なのです。

田んぼの中のあちらこちらで頬を膨らませて、「ウゲゲ、ウゲゲ……」と大きな声で鳴いているのはトウキョウダルマガエル。一方、「コロコロコロ……」と田んぼの隅の方でかわいい声で鳴いているのはシュレーゲルアオガエル。鳴き声も姿も地味ですが、田んぼの中に産み込まれた丸い卵塊が目立つニホンアカガエル。

オミナエシ
トウキョウダルマガエル
シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル
ニホンアカガエル<
ニホンアカガエル


カエルは、幼生のオタマジャクシの時も、成体のカエルになってからも、さまざまな肉食性の生きものの食物になります。タガメやタイコウチ、ヤゴ類(トンボ類の幼虫)など水生の昆虫はオタマジャクシに依存する率が高く、ヘビ類、サギ類やタカ類など陸生の動物もカエルをよく食べます。カエルがたくさんいるからこそ、豊かな生物相は保たれるのです。カエルは生態系の基盤を支える重要な生きものと言っても過言ではありません。

農業・農村によって作られた田んぼという浅くて温かな水辺は、カエルにとって絶好の生息場所であったに違いありません。しかし近年では、農地整備や乾田化、耕作放棄地の増加などに伴い、カエルがすみにくい田んぼが増えています。このことは即、日本の生物多様性の劣化につながります。

農業・農村が持つさまざまな機能の重要性

上で述べたカエルと田んぼの関係に留まらず、農業・農村は「食料等の生産」以外に多くの機能を持っています。例えば、国土保全、水源かん養、自然環境保全、景観形成等です。この多面的機能を発揮するために、全国の農業団体等の活動に支払われる交付金制度について、本年4月に日本野鳥の会を含む自然保護6団体は、環境保全等に関する問題点を指摘するとともに、生物多様性保全と持続的な農業の両立に向けた提案を行ないました。

日本野鳥の会は、日本の生物多様性を保全するために、農業・農村の政策・制度の改善についても取り組みます。

水を入れた田んぼの土をならす

水を入れた田んぼの土をならす

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