トップメッセージ 2022年1月
2022年1月6日更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介
新年のご挨拶
同じ地球に生きるものとして、野鳥の立場からの発言を
あけましておめでとうございます。
新型コロナウイルスの感染拡大はオミクロン株の発生で、まだまだ心配な状況が続いていますが、ウイルス自体が弱毒化しつつあることなど、少しは収束への道筋も見えてきたようです。しかしこれまでのほぼ2年にわたる制約された日常に、みなさま方も大変なご苦労をされたことと思います。そのような中での日本野鳥の会への温かいご支援、本当にありがとうございます。
当会では、タンチョウ、シマフクロウ、シマアオジなど絶滅のおそれのある野鳥を守る活動として、生息地一帯の土地を買い取り、独自の野鳥保護区を設置する活動を続けています。おかげさまで当会が所有する野鳥保護区は、北海道を中心に全国45か所、3,500ヘクタールを超えるまでになりました。民間のNGOが保有する自然保護区としては国内最大の面積になりました。
私たちは、近年注目されている海洋プラスチック問題やメガソーラー、巨大風力発電施設問題等、人間活動の営みが野鳥へおよぼす影響について、野鳥の立場からの発言、法制度への提案にも力を入れています。
メガソーラーは自然に優しいエネルギーというイメージとは裏腹に、大規模に山林を伐採して、土砂災害の危険を引き起こし、生態系に大規模な悪影響を与えるという点で、はっきり自然破壊であるとの烙印を押すべきでしょう。
風力発電も、事前のゾーニング(地域選定)を行なって、鳥の飛行経路に当たらない地点を選ぶなど、良心的な対応をしてくれている事業者もありますが、とにかく規模を拡大して、大面積にわたって風車群を配置すれば利益も大きいとだけ考えている事業者もあります。私たちは1つ1つの事業を厳しく監視していかねばならないとおもっています。
海洋プラスチック問題も深刻です。大量のプラスチック片を飲み込んで、死に至ったウミガメやコアホウドリのヒナの写真を見ると、私たちがどんなにこの地球生態系に申し訳ないことをしているのかという想いで胸がいっぱいになります。とくに海面を漂うマイクロプラスチックは、海面でプランクトンをついばんで採餌するウミツバメ類には、大きな脅威だと思っています。
化石燃料という言葉があります。石炭も石油も古代の生物の化石です。石炭、石油、天然ガス、そしてそれらを原料につくられるプラスチック。石炭も石油も天然ガスも3億年以上前の古生代に生きていた植物や動物の遺骸から形成されたものです。その頃はまだ木を分解する菌類が繁栄しておらず、木部の固いセルロースを分解することのできるシロアリやゴキブリもそんなにいなかった時代です。そのため地中や海底に堆積した木や有孔虫の遺骸が、何億年もの長い時間をかけて石炭や石油に変わっていったのです。だから石炭も石油も、地球上では二度と作られることはありません。地球が守り続けて来た資源を掘り出して、どんどん二酸化炭素に変えてしまう現代の人間の営みに、同じ地球に生きるものとして、もっと厳しい目が向けられるべきでしょう。
ウグイスもそろそろ鳴き出します。春に向かって活動の準備を整えましょう。
日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
新年のご挨拶
地域の自然が地域の手で守られる社会へ
あけましておめでとうございます。
昨年はコロナに始まり、コロナに終わった1年でした。そんな落ち着かない日々にもかかわらず、会員や支援者の皆さまから多大なご支援を賜り、心よりお礼申し上げます。お陰さまで、シマフクロウの新たな野鳥保護区の設置、人工衛星発信機を用いたオオジシギの渡りルートの把握、ウトナイ湖サンクチュアリ開設40周年シンポジウム(オンライン)の開催など、様々な成果をあげることができました。
さて私は、コロナが少し落ち着いた昨年の秋から冬にかけて、渡り鳥に関係する2か所の地域を訪れる機会に恵まれました。
10月に訪れたのは沖縄県宮古島市です。宮古島は渡り鳥のタカであるサシバが、南の国に向かって日本を離れる前に最後に立ち寄る島です。この時期、多い年には数万羽のサシバが、通過していきます。それに合わせて「国際サシバサミット宮古島」が開催され、基調講演を行なうために参加しました。今回は残念ながらオンライン開催のため、海外や全国の関係者が一堂に会することはできませんでしたが、「宮古野鳥の会」顧問の久貝勝盛先生から「宮古のサシバ文化」と題して、この島特有のサシバとのかかわり、そして地道な保護活動の取組みのお話を聞くことができ、深く感銘を受けました。
そして12月に訪問したのが愛媛県西予(せいよ)市です。ツル類の渡来地としては、1万羽を超えるナベヅルやマナヅルが冬を過ごす鹿児島県出水(いずみ)市が有名ですが、西予市にもここ数年、数十羽のツル類が渡来します。時にはコウノトリも飛来するそうです。
訪問した時も50羽ほどのナベヅルとマナヅルの群れを見ることができました。地元の行政や農家の方が、山間の細長い田んぼに水を張ってねぐら環境を整備するなど、ツル類が落ち着いて暮らせる環境づくりを進めていました。また、当会の支部も調査や普及教育などの分野で積極的にかかわっていました。地域全体に「ツル愛」があふれており、感激しました。
日本野鳥の会では、2030年を目標年として、
- 絶滅危惧種の保護と野鳥の生息地保全
- 地域の自然が地域の手で守られる社会
- 生きものや自然に配慮したエネルギーシフトの実現
- 自然への理解者の増加
- 自然保護を担う次世代の育成
という5つのビジョンを設定しています。上にあげた2地域の事例は、まさにビジョン2の「地域の自然が地域の手で守られる社会」の姿であり、当会がめざすものです。
これからも、当会は地域の支部や野鳥保護団体、行政、住民の皆さんと手を携えながら、人と自然が共存する社会づくりに取組みます。今年も、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。