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2025年1月14日 更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介
【新年のご挨拶】鳥を見る活動の広がりが社会を変える力へ
あけましておめでとうございます。
会員、サポーターの皆さま、元気に鳥を見て(聴いて)おられるでしょうか。昨年の日本列島は暑い夏から秋を飛ばして、一気に寒い冬に突入した感があります。そのせいかどうかわかりませんが、この冬は冬鳥が少ないという声があちこちで聞かれます。鳥たちにとって、こうした気候の変化はどんな影響をおよぼしているのでしょうか。
さて、私たち日本野鳥の会は風力発電やメガソーラーのうち、バードストライクの危険があるものや、大規模に自然を破壊するものに対して、科学的な見地からキッパリと反対の意見書を事業者や自治体、国に提出し、メディアに対してもSNSを含め、さまざまな媒体を駆使して発信し、乱開発にブレーキをかけています。
当会がこのように日本の自然保護に大きな力を発揮することができているのは、全国の支部・連携団体、そしてサポーターの皆さんが、探鳥会をはじめとするさまざまな活動を通じて、野鳥や自然への関心を広げているからです。「鳥を見る(聴く)」という活動は、一見、地味ですが、この活動の広がりが、ゆっくりではありますが人々の心を動かし、社会を変える力となっていると確信しています。改めて、皆さまからの物心両面のサポートに心より感謝申し上げます。
さて私事ですが、私にとって昨年はアジアに関係の深い年でした。10月にはネパール、11月には中国、そして12月にはフィリピンを訪ねてきました。
ヒマラヤ4000mの岩場で出会ったヒメサバクガラス
ネパールは仕事ではなく、ヒマラヤトレッキングを楽しんできました。アンナプルナ山塊をのぞむ3000~4000mの尾根を1週間かけてのんびり歩いてきました。
鳥はそんなに多くはありませんでしたが、4000mを越えた岩場で、ずっと前から気になっていたヒメサバクガラスに出会うことができました。この鳥はカラスと名前がついているように、中央アジアの砂漠から高山の荒地に生息するムクドリ大の地上性の鳥で、長い間カラス類に近縁だと思われていたのです。それが近年の分子系統解析でParus(シジュウカラ)属の鳥だということがわかったのです。こんな鳥までシジュウカラの仲間になっているのは不自然だと思った研究者によって、その後、Parus属が再検討され、ヒガラもコガラもヤマガラもそれぞれ独立した別の属に分類されてしまいました。
- ヒメサバクガラス(eBird)
急速に発展する中国の鳥類学
中国へは北京で開催された第二回アジア鳥類学会議に、当会研究員のシンバ・チャンと参加してきました。私はもうリタイアしているので、現役の活きの良い研究成果は発表できませんが、開催事務局からの依頼で、「日本の鳥学と自然保護」というテーマで日本の若手の研究紹介や、日本野鳥の会の活動などを紹介してきました。中国の鳥類学の動向については、日本にいるとなかなか情報が入ってきませんが、多くの分野で急速に発展しているなと思いました。とくに分子系統学やGPSを用いた渡りや移動の研究は、研究費が十分に保証されているのだと思いますが、圧倒的なサンプルサイズで良い結果を出しています。また、あちこちの大学に拠点があり、若い研究者がたくさん育っていて活気を感じました。実際、日本はもう追い越されているかもしれません。ただし、私の専門である行動生態学の分野では、まだまだ欧米の後追い感が強く、面白い研究が少ないなと感じました。
フィリピンでの越冬鳥調査
12月のフィリピンはバードリサーチの調査のお手伝いでした。バードリサーチではトヨタ財団の助成を受けて、フィリピンでの有機コーヒー栽培を支援するプロジェクトに取り組んでいます。コーヒーの木のみを植える単一のプランテーションではなく、アグロフォレストリーといって、林の中にコーヒーの木を植えて、森も守りながらコーヒーの木も育てるという自然に配慮したプロジェクトです。事実、コーヒーの木は少し日陰の方がよく育つらしいのです。そしてこの森づくりにはさまざまな鳥が関わっていることがわかっています。そこで日本で繁殖したオオルリやキビタキ、クロツグミなどの夏鳥が、越冬場所であるフィリピンでどのように生活しているかを調べるのがこのプロジェクトです。
調査地はマニラから北へバスで11時間ほど入った800~1800mの山岳地帯(Mountain Province州)です。ここでフィリピン側の協力団体のメンバーと鳥を捕獲したり、センサスしたりしていました。美しい声で鳴くヒヨドリ類やサンバード、ハナドリの仲間、バンケン類など、日本ではお目にかかれない鳥たちがたくさん生息している地域です。残念ながら、目当ての越冬鳥たちの生息は確認できませんでしたが、キセキレイやコムシクイはたくさん越冬していました。
今年も全国の会員・サポーターの皆さんと手をたずさえて、野鳥と自然を守る活動に取り組みたいと思っています。
日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
【新年のご挨拶】野鳥も人も健やかにくらせる社会を目指して
明けまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
さて、今年のお正月も(さらに加えれば、昨年も一昨年も)、私は家の周りの里山で野鳥たちを見たり、山仕事をしたりして過ごしました。
今冬は、私の住む栃木県市貝町の「サシバの里保全創造条例」に基づいた動植物調査に協力している関係で、町内のあちこちを歩きました。面積67平方キロメートルで起伏が少ない町のため、大体の場所は知っていると思っていましたが、歩いてみると知らなかった場所もあり、新鮮でした。
特に印象深かったのは、耕作放棄された谷津田の奥にあるため池。そこには、栃木県や市貝町のレッドリストに入っているオシドリ(準絶滅危惧)が、水面の半分ほどを覆うように100羽ほどの群れで泳いでおり、おどろかされました。主な食物であるドングリが豊富な雑木林に囲まれた静かなため池は、オシドリにとって絶好の越冬場所なのかもしれません。
また、別のため池では、マガモやカルガモに混じって、オカヨシガモが30羽ほど見られました。オカヨシガモは、比較的数が少ないカモだと思っていましたが、こんな身近な池に多数いるとは思いませんでした。オカヨシガモは、「全国鳥類越冬分布調査」と「ガンカモ類の生息調査」のそれぞれにおいて近年、越冬個体数の増加が報告されています。ある場所では水質の浄化でエサとなる水草が増え、本種が増加したとされており、全国的にそのような事例が増えているのかもしれないと言われています。環境が改善されて、増えているとはうれしいことです。
一方で意外だったのは、冬鳥の代表であるツグミです。ツグミが、どこに行ってもほとんど見られません。この里山に移住して今年で10年になりますが、こんな年は初めてです。12月中旬ごろまでは、暖冬で北日本や標高の高い地域に留まっていて平野まで下りてこないのかと思っていましたが、上述した地域で広く降雪があった後も一時期少数が見られただけで、その後も増えることなく、また見られなくなってしまいました。
私が鳥仲間に聞いた範囲では、栃木県内の平野部ではどこも同様な状況だと言うことです。繁殖地の環境悪化や異常気象などによって繁殖がうまくいかず、個体数が減少していなければよいのですが。今後の動向が気になります。
野鳥たちの生息状況の変化は、同じ自然界の一員である私たち人間の暮らしや健康にもつながります。今年も、日本野鳥の会は「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、野鳥も人もともに健やかにくらせる社会を目指して頑張ります。引き続きご支援をよろしくお願いいたします。