多摩川河口干潟の保全に関する要望書
平成18年10月24日
国土交通大臣
冬柴 鐵三 様
(財)日本野鳥の会
会長 柳生 博
(財)世界自然保護基金ジャパン
事務局長 樋口 隆昌
多摩川河口干潟の保全に関する要望書
~「神奈川口構想」の具体化に関して~
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。日頃からの自然保護行政への積極的な推進について感謝申し上げます。
さて、多摩川河口部の川崎市側を再整備し、羽田空港と川崎市側を結ぶ新しい連絡道路を建設するとの構想(「神奈川口構想」)が検討されているということを聞き及んでおります。神奈川口構想の具体化に際しましては、多摩川河口干潟の重要性を十分に認識していただき、十全の環境保全をお願い致したく、下記のことを要望いたします。
記
- 連絡道路の建設計画については、干潟の生態系に悪影響を与える橋梁案には反対であり、この構想を見直すこと。
- 干潟生態系に影響がある地上構造物は建設しないこと。
- 河川敷については、コアジサシの営巣できるような砂礫地の環境や、草原性鳥類の生息できるヨシ原の環境を保全・再生し、多様な生物が生息出来る空間を配置すること。
理由
都市化の著しい京浜地区にあって、多摩川はたくさんの人々に憩いの空間を提供し、また多くの動植物の生息環境ともなっています。特に河口部の多摩川河口干潟は、埋め立て等により多くの干潟が失われた東京湾奥部においてなお良好な干潟生態系をとどめるており、プランクトンからゴカイ類、貝類、藻類、魚類、渡り鳥に至る多様な生物空間を形作っています。またその生態系により、水質の浄化機能や、有用な魚貝類の稚仔魚を育成する機能を担っています。また、都会の中でも本物の自然に触れられる場所として、バードウォッチングや自然観察に多くの人が利用しています。
科学的にも、多摩川河口干潟で確認されたレッドデータブック掲載鳥類(資料1)によると、環境省基準14種、神奈川県基準37種が記録されており、標識調査結果(資料2)によると、米国アラスカ州、豪州などから、定期的にシギ・チドリ類の渡りが記録されております。
こうしたことから、多摩川河口干潟は、環境省の「日本の重要湿地500」及び「モニタリングサイト1000事業シギ・チドリ類調査地」に指定され、また国土交通省により策定された多摩川水系整備計画でも「生態系保持空間」に位置づけられ、国際的な鳥類保護組織であるBirdLife Internationalが選定したIBA(重要野鳥生息地、東京湾奥部)にも指定されています。
このように、多摩川河口干潟は、人間にとっても多くの動植物にとっても他に替えがたい高い価値を持った場所と位置づけることができます。各地の干潟をめぐる開発の事例から、干潟の生態系は一度連鎖を断ち切られるとその維持が非常に難しいと考えられますので、多摩川河口干潟は、こうした現状を残したまま、保全管理していくことが望まれます。
以上
本件に関するお問い合わせ先
- (財)日本野鳥の会
〒191-0041 東京都日野市南平2-35-2 WING
自然保護室長 古南幸弘
TEL.042-593-6872 FAX.042-593-6873 - (財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル
自然保護室主任 花輪伸一
TEL.03-3769-1713 FAX.03-3769-1717
同文面の要望書を以下の方々にも提出しております。
神奈川県知事 松沢 成文 様
東京都知事 石原 慎太郎 様
川崎市長 阿部 孝夫 様
横浜市長 中田 宏 様
資料1
多摩川河口干潟で確認されたレッドデータブック掲載鳥類
神奈川県基準 | 環境省基準 | |
ツバメチドリ | 絶滅危惧II類 | |
セイタカシギ | 絶滅危惧IB類 | |
タゲリ | 絶滅危惧II類 | |
ケリ | 越冬期準絶滅危惧 | |
イカルチドリ | 繁殖期準絶滅危惧 | |
シロチドリ | 繁殖期絶滅危惧II類 | |
メダイチドリ | 準絶滅危惧 | |
オグロシギ | 絶滅危惧II類 | |
オオソリハシシギ | 絶滅危惧II類 | |
チュウシャクシギ | 絶滅危惧II類 | |
ダイシャクシギ | 絶滅危惧I類 | |
ホウロクシギ | 絶滅危惧I類 | 絶滅危惧II類 |
ツルシギ | 準絶滅危惧 | |
アカアシシギ | 準絶滅危惧 | 絶滅危惧II類 |
アオアシシギ | 準絶滅危惧 | |
コキアシシギ | 準絶滅危惧 | |
クサシギ | 準絶滅危惧 | |
タカブシギ | 準絶滅危惧 | |
ソリハシシギ | 絶滅危惧II類 | |
キアシシギ | 絶滅危惧II類 | |
キョウジョシギ | 絶滅危惧II類 | |
ミユビシギ | 絶滅危惧I類 | |
トウネン | 絶滅危惧II類 | |
ヒバリシギ | 準絶滅危惧 | |
ウズラシギ | 準絶滅危惧 | |
ハマシギ | 絶滅危惧II類 | |
サルハマシギ | 絶滅危惧II類 | |
ヘラシギ | 絶滅危惧IB類 | |
エリマキシギ | 準絶滅危惧 | |
チュウサギ | 準絶滅危惧 | |
ササゴイ | 絶滅危惧II類 | |
ミサゴ | 絶滅危惧II類 | 準絶滅危惧 |
ハチクマ | 絶滅危惧I類 | 準絶滅危惧 |
チュウヒ | 絶滅危惧II類 | 絶滅危惧II類 |
ツミ | 絶滅危惧II類 | |
サシバ | 絶滅危惧I類 | |
ハヤブサ | 絶滅危惧I類 | 絶滅危惧II類 |
クイナ | 絶滅危惧II類 | |
オオアジサシ | 絶滅危惧II類 | |
コアジサシ | 絶滅危惧I類 | 絶滅危惧II類 |
ベニアジサシ | 準絶滅危惧 | |
エリグロアジサシ | 準絶滅危惧 | |
コヨシキリ | 絶滅危惧I類 | |
オオヨシキリ | 絶滅危惧II類 |
資料2
標識調査記録(多摩川河口) *1,*2,*3
放鳥場所 | 和名 | 観察例 |
米国アラスカ州 | ハマシギ | 16 |
台湾 | トウネン | 1 |
豪州ヴィクトリア州 | ダイゼン | 2 |
豪州ヴィクトリア州 | トウネン | 2 |
豪州南オーストラリア州 | ミユビシギ | 1 |
風蓮湖 | キアシシギ | 2 |
風蓮湖 | トウネン | 2 |
風蓮湖 | メダイチドリ | 1 |
谷津干潟 | トウネン | 1 |
谷津干潟 | ハマシギ | 1 |
千葉県側東京湾 | シロチドリ | 2 |
小櫃川河口 | オオソリハシシギ | 2 |
小櫃川河口 | キアシシギ | 3 |
小櫃川河口 | シロチドリ | 11 |
小櫃川河口 | ソリハシシギ | 5 |
小櫃川河口 | トウネン | 8 |
小櫃川河口 | ハマシギ | 25 |
小櫃川河口 | メダイチドリ | 1 |
*1 観察期間:2000年春~2005年春
*2 資料提供:山階鳥類研究所
*3 このデータは、各国の研究者の協力により得られたデータです。